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「国立国会図書館デジタルコレクション」に有る論文です。
 スペシャル  - 16/12/17(土) 19:47 -

引用なし
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   痩削性鼻炎並びに真性臭鼻症と紫外線「ビタミン」Dとの関係に就いて
(倉敷中央病院耳鼻咽喉科)
村上 正徳(医師)

第1章 緒言並びに文献
およそ疾病を治するにはその原因的療法に俟つべきは論外の事にして、これに向かって先ずその原因を確定するは贅言の要は無いのである。されど或る疾病に依りてはその成因は個々たらず時には幾何かの要約合成に依りて始めて成立するもの有るは正に甚大の注意を拂うべき物であるとする。吾が領域に於ける臭鼻症の如きもまた古来より一つの謎と稱せられる。医会の進歩は急である、然してまた医学の疑問は多事である。輓近擡頭する内分泌説、自律神経、放射線然して「ビタミン」問題等正に百花爛漫の状態にしてこれ等諸問題が幾多難解の諸症の解決に與って力あるは周知の事実である。折々臭鼻症の成因は吾が領域に於ける多年の懸案にしてその業績報告もまた無数である。しかも今日尚不可解なる謎として残され従ってこれが会心の療法に接っしないのもまたしかたが無いことである。これその成因を一二結果を一二歸せんとして単一なる療法のみに信頼して総合的総攻撃法に留意しないのでは無いか?今文献を案ずるに本症が家庭的遺伝的に現れるは吾人の日常しばしば目撃する所にして、また他方的、人種的にその発生頻度を異にし且つ社会的、職業的に少ない多いがあるを認め、女性に多く思春期に頻発するは己に周知の事実である。尚先人の記する所は身體の局所解剖的に因子あるを力説し或いは副鼻腔疾患の二次的過程なりとも唱えられ、将又梅毒、結核に合併してこれが連鎖あるを唱える人も有り。然るに輓近の自律神経系統の開拓は本症は交感神経疾患にして楔状口蓋神経節に関係あるを主唱される。更にまた内分泌物方面の研究として脾臓、甲状腺、卵巣などがその発生因子に重大なる関係あるを唱えるなど実に應接に煌なき状態なりとする。これより先Lowenberg,ローウェンバーグ、Abelアベル perezペレツ等は本症に特意とするCoccobacillusコッコバシルースを発見して本症唯一の病原なりとしこれに対する「ワクチン」療法も試みられてここに斯界の一大革命を惹起した。然る所その後臨床上並びに細菌学的方面の検索によりては本症は強まるのを該菌のみに依るべからざるを実証し細菌説は一過性の彗星の如く消滅せんとし本症の治療は依然混沌に帰りたる有様である。今日医学の進歩は周期的に交代せんとする傾向ありて多くの疑問に対する見解もまた循環せんとしつつあり。温故知新このところに於いて近来更に体質論の擡頭せるもまた宜なりと言うべし。現時臨床上意義ある疾病に於いてはその先天性の病的体質が後天的病変を醸すに至るは広く認められる所にしてその局所的病変を全身的体質より分離せんとするは正に大なる誤診なりと唱えられる。臭鼻症が肉体的薄弱なる者に多く変性体質の若人に頻発し、或いは淋巴体質、慘出性体質又は迷走神経緊張性の者がその思春期に至り何等かの誘因によりて本症を惹起した時必ずや体質の成因的意義によりいることは想像に余りあり。されど吾人は尚本症に於いてあまりに体質のみに拘泥して真の要約的主素を忘却せんとすればまた再び五里霧中に彷徨すべきを必する。このところにおいて近時新陳代謝の方面開明となり殊に化学的血液変化は興味ある事実を提供する。即ち本症患者における血中「コレスチン」の減少「カリウム」「カルシウム」の平衝、「イオン」の均整障害転位等を証明し此の所に食事栄養問題勃興して新生面を拓きたり。己に古くフオイトの栄養学説が出て以来ヒンドヘーテ、フレツチヤ等の所説医会を風靡して今や新陳代謝研究と相俟って食物栄養の新紀元を構成せんとし、最近更に「ビタミン」の出現により一新方面の見解築かれんとしつつあり。各種「ビタミン欠乏」が種々疾病の原因的要素をなせるは今日随時証明されつつある事実である。所謂臭鼻症も新陳代謝、栄養問題と共に「ビタミン」欠乏にその源を発するに有ると、將又これに加えるに体質内分泌、特種細菌などの要約が合体して惹起するものに有るかの疑義が実に私にしても本篇を創せんとする所為のものである。本問題は詳かに先人の業績を渉覧し日常遭遇する臨床例をつぶさに観察すれば何人と難きも一度は首背せんとする問題にして、私は平素診療にあたりて必ず該患者の食養その他に欠陥ないかを考慮し、輓近の「ビタミン」学説を連想し更に紫外線照射「ヴガントール」投与によりて奏効するを実証して以来益々此れの関係の深遠なるを信じ幸にその臨床的観察を総括し得たものを以てこれらにその一端を述べ、合わせて本症と紫外線並びに「ビタミン」Dとの関係を聊か論じ本症研究の一資料たらんと欲するものである。


第2章 輓近に於ける「ビタミン」Dと紫外線
近時「ビタミン」の研究は日に月に進み各方面に於いて新機軸を見い出せるが最も興味あり注目すべきは最近における「ビタミン」Dと紫外線の関係である。それに1913年Mocollumモコルーム、Devisデイビスが鱈肝油及び「バター」の中に所謂脂溶性「ビタミン」があることを発見し眼乾燥症及び成長に必要になることを唱えた。当時それにOsborneオズボーン、Mendelメンデルはその「ビタミン」が佝僂病に有効と成る物と附加した。次いで1918年Huldschinskyヒュルドスチンスキィーが佝僂病は紫外線照射により治癒可能と成ることを報告し更に1929年Hessヒース、Tic’Smisティック’スミス Slenborgスレンボーグ等は皮膚に照射すると有効成るも単に食物を照射しても尚目的を達すると唱えた。尚最近世人の注目を引くことはCa(カルシウム)新陳代謝とLipoidリポイドの消長である。又肝油中の有効成分はその中の沃度化合物にはあらず、またリン、タンパクにもあらずしてその中に含める僅かのLipoidリポイドなるSterinステリンなることを実証した。Sterinステリンは麥角中に含まれること多きを以って之これより採取してエルゴステリンErgosterin C27 H42 Oと称した。今これのエルゴステリンErgosterinの結晶に紫外線を照射しこれを1%の(100%の間違いか?)「オレーフ(オリーブ)」油に溶解したものを即ちVigantol(ヴガントール)であるとする。今自然界に於いて紫外線により「ビタミン」Dとなる母體は「エルゴステリン」のみであるか或いは他に類似の物があるかは不明なるも鷲見は日本椎茸より「エルゴステリン」と同様なる物質を純粋に分離した。動物に於いては単に皮膚中には十分なる母體の存在することを伺い知ることが出来ても、粘膜に於ける照射は果たして如何なることかはまだ誰もこれを唱える人が居ない。更に近時「ビタミン」Dは臨床的に骨形成と密接なる関係を有するを以ってこれを生化学的に動物の新陳代謝の上に大なる関係が有るとする。即ちシユルツエル(1927)は紫外光線を照射した時期に於いては佝僂病性食餌においても明らかにCa,Pの保存量が増加すると言った。また同じくKreitmairクリィートマイア、Mollモールは「ビタミン」DはCa新陳代謝を促進してもしこれの過剰なる時は組織中にCa(カルシウム)が沈殿されると唱えた。そうして「ビタミン」Dは佝僂病のみならず尚妊娠骨軟化症、骨折などにも有効であると唱えられるに至ったそして最近Bilkhorzビルクホルツ、Beselinべセリンが我が鼻科領域における「ビタミン」Dの第一矢を放つに至ったのである。そして吾が臭鼻症の現状を按ずるに細菌説もまた動きべからざる一成因と見なしても尚且つそのことごとくをこれに帰することも出来ない。局所解剖説、副鼻腔説、結核、梅毒説などまた確実なる立証をとげられていない。將又自立神経、内分泌物方面の研究も未だ全て明らかでない。然るに本症が思春期に多く女性に多く下層社会の日光に照射せられる機会に乏しき者に多きを見た、局所の乾燥萎縮の病理組織学上の所見は正に或る何物かを暗示するものになるはずである。かくて「ビタミン」Dの周到なる投与によって治癒に趣くことを実証せられるを合わせ考えれば私が今日本の問題を提唱するのに従事しないことは想像し得ない。然して今日私はただ臨床上の実際を調べて未だ逑蒙なる臭鼻症治療の一端を本問題に依りて解決の域に達する第一歩を進み得たと信ずるものである。
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